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「日本の国力は約40年周期で浮沈を繰り返す」という説がある。確かに、1905年に日露戦争で国力がはるかに上のロシアに勝利したことが絶頂とすれば、40年後の45年、第二次世界大戦で米国に敗れ、どん底に。戦後、復興を遂げ、40年後の85年ごろ経済大国として再び絶頂を迎えた。説に従えば、次のどん底は2025年前後に来る。政府は回避へ全力を尽くさなければならないが、岸田文雄政権は景気に打撃を与える「増税」「金融引き締め」を進める可能性が高い。〝大負担時代〟到来で国内経済が壊れないよう、政権は軌道修正をはかるべきだ。
国力の要素には軍事力、経済力などがある。第二次大戦前に日本で大切だったのは軍事力、大戦後は経済力だった。
まず、欧米列強の脅威が幕末の動乱につながり、江戸幕府が政権を返上して250年以上にわたる統治体制が終焉を迎えた1867年をどん底だったとする。
翌年、元号が明治となり、日本は近代国家の形を整えるべく再スタート。日清戦争をへて、1905年、日露戦争でロシアに勝利した。1867年から38年後のことだ。近代国家を目指してわずかな期間で超大国ロシアを屈服させたことで、日本は世界中の驚きと尊敬の対象となり絶頂期を迎えた。
その後、中国大陸への進出を拡大すると、国際社会から孤立。第二次大戦で米国と衝突し、45年の敗戦となった。日露戦争の勝利からちょうど40年後で、日本は焦土と化し、再びどん底に落ちた。
戦後は自由主義陣営に加わり、経済力を強化。50年台、高度成長期に入り、60年台後半には国民総生産(GNP)が米国に次ぐ世界2位に。敗戦から41年後の86年には空前のバブル景気が到来し、経済大国として絶頂期を迎えたかに見えた。
だが、91年にはバブルが崩壊し、経済は長期の停滞期に入る。2010年には国内総生産(GDP)が中国に抜かれて世界第3位に転落。人口もすでにピークを迎え減少に転じている。40年周期説が正しければ、日本は25年前後のどん底へ向け、歩みを進めていることになる。
「40年前の20代」の経験が鍵
なお、周期が約40年であるのには理由がある。そのときどきの政治指導層の中心である60代が、40年前の20代にどういう時代を過ごしたかによって政策運営の判断に違いが出るのだ。
日露戦争のころの指導者は幕末に20代で、馬関(ばかん)戦争や薩英戦争を経験し、外国のおそろしさが骨身にしみていた。日露戦争では無謀な戦争継続を行うことはなく、世論の反発をおそれず講和の条件で妥協し、勝利のうちに戦争を終えた。
一方、第二次大戦で日本を破滅に導いた、敗戦時に60代だった指導者は、日本がロシアを破った絶頂期に20代だった。「日本は無敵」という刷り込みがあり、日本の力を過信して無謀な対米戦争に突入した側面があっただろう。戦後、経済大国として絶頂を迎えたころの指導者は敗戦時に20代。米国の強さを身をもって体験した世代だった。
今の指導者の中心は、1957年生まれの岸田首相をはじめ、経済大国として絶頂だったころに20代、30代だった世代だ。バランス感覚を持ちながら、注意深く慎重に政策運営を進めることが求められる。
経済にダブルパンチ、再考を
周期説で次のどん底となる2025年は、わずか2年先に迫った。しかし、日本の国力の中心である経済力は、はっきりと上向く様子がない。
内閣府によると、経済の実力を示す潜在成長率は0・5%とあいかわらず低迷。人口減で労働力が減るなか、潜在成長率を上げるには生産性の向上が不可欠だが、カギを握るイノベーション(技術革新)にからんでは、「ロケット『イプシロン6号機』の打ち上げ失敗」など、ネガティブなニュースが目立つ。
脱炭素を軸にした成長戦略なども効果が出るまで時間がかかる。まずは、合計でGDPの約7割を占める個人消費と設備投資を上向かせ、コロナ禍で傷んだ景気を回復させることが先決だ。
だが、岸田政権は景気に逆風となる政策を進めようとしている。
まず増税だ。政権はこのほど、防衛費増額の財源の一部に法人税、所得税、たばこ税の3税の増税をあてることを決めた。増税するのはいずれも「24年以降の適切な時期」としている。
法人税は4~4・5%の「付加税」を上乗せするが、企業の設備投資や賃上げを萎縮させる恐れがある。所得税の増税も個人消費を冷やす。東アジア情勢を踏まえれば防衛力の強化は避けられないが、国民生活に犠牲を強いれば総合的な国力は衰退へ向かう。
さらには自民党内で、少子化対策の財源として消費税を増税する案も浮上している。
一方で予想されるのは、日銀による金融緩和からの脱却だ。法律で独立性が保障されているとはいえ、日銀は「実質的に政府の子会社」(政府関係者)。安倍晋三政権の経済政策アベノミクスから脱したい気配のある岸田政権が、アベノミクスの柱だった大規模な金融緩和からの脱却を日銀に進めさせるのは、自然な成り行きだ。
実際、黒田東彦総裁が率いる日銀が12月20日に決めた長期金利の上限引き上げは「事実上の利上げ」(市場関係者)で、それまでの黒田氏の言動からは考えられないサプライズだった。23年春までに就任する次の総裁が政権の〝方針〟どおり金融引き締めを進めやすいよう、環境を整えたとも考えられる。
今後、長期金利の上限撤廃や短期金利の引き上げが検討される可能性があるが、これらは住宅ローンや企業向け融資の金利上昇につながり、住宅需要や企業活動を冷やす。
「増税」「利上げ」のダブルパンチは経済に大きな打撃を与え、間違いなく25年前後に日本をどん底へ落とす。岸田政権には今からでも再考を求めたい。
筆者:山口暢彦(産経新聞経済部次長)